「悪口はやめなさい!」——子どもの頃、そう叱られた経験がある人は多いはず。
けれど、なぜ悪口はいけないのか?と聞かれたら、きちんと答えられる人は意外と少ないのではないでしょうか。
本書『悪口ってなんだろう』は、言語哲学の視点からこの素朴な疑問に正面から向き合った一冊です。
「傷つけるから悪い」という単純な理由では片づけられない、悪口の本質に迫ります。

この本の概要
著者は南山大学人文学部准教授の和泉悠氏。言語哲学・意味論を専門とし、悪口やヘイトスピーチといった「言葉のダークサイド」を研究する、まさにこのテーマのスペシャリストです。専門家の視点から悪口を分析する、知的好奇心をくすぐる一冊といえるでしょう。
ちなみに本書が収録されている「ちくまプリマー新書」は、中学生・高校生から大人まで幅広い読者に向けて、専門的なテーマをやさしい言葉で伝えることを意識した新書シリーズとして知られています。専門的な内容でありながら読み進めやすいのは、そうしたシリーズの方向性が影響しているのかもしれません。
専門知識がなくても読み進められる、平易な語り口が特徴です。
この本はこんな人にオススメです。
- SNSでの中傷や職場・学校の陰口が気になる人
- 悪口とどう向き合うか悩んでいる人
- 「悪口」と「軽口」の境界線をうまく説明できずにいる人
『悪口ってなんだろう』は何ページ?基本情報
| 著者 | 和泉悠(南山大学人文学部人類文化学科 准教授/専門は言語哲学・意味論) |
|---|---|
| 出版社 | 筑摩書房(ちくまプリマー新書 432) |
| 発売日 | 2023年8月3日 |
| ページ数 | 160ページ(新書判) |
| 定価 | 990円(税込) |
| 構成 | 全3部(1 悪口はどうして悪いのか/2 どこからどこまでが悪口なのか/3 悪口はどうして面白いのか) |
160ページの新書なので、ふだん本を読まない人や中高生でも、数日あれば読み切れる分量です。
要約を3行で
- 悪口が悪いのは「傷つけるから」「悪意があるから」だけでは説明しきれず、相手の「ランク」を下げる行為だから
- 同じ言葉でも、関係性や状況によって軽口にも悪口にもなる(あだ名が問題になるのもそのため)
- それでも悪口を言うのが「面白い」と感じてしまうのはなぜか、笑いや脳の研究からも考える
悪口はどうして「悪い」のか——人の「ランク」を下げる行為
著者がまず提示するのは、「悪口は単に相手を傷つけるから悪いのではない」という視点です。
悪口の本質は、相手を自分より低い立場に置こうとする、いわば序列づけの行為にあるといいます。
たとえば「だから〇〇は」といった決めつけの一言は、聞き流してしまいがちですが、実は相手(や特定の属性を持つ人たち)の立場を暗に下げる働きを持っています。
悪口を「感情の問題」ではなく「関係性・権力の問題」として捉え直すと、これまで見過ごしていた言葉の危うさに気づかされます。
たとえば職場で「あの人はいつも要領が悪いから」という一言が交わされる場面を想像してみてください。本人に直接向けられていなくても、そこには話し手が聞き手より優位な立場から相手を評価しているというニュアンスが含まれています。本書の視点を借りれば、こうした何気ないひと言も「ランクづけ」の一種として捉え直すことができ、自分自身の発言を振り返るきっかけになるはずです。
あだ名や軽口とは何が違うのか
本書は「悪口」と「軽口」「あだ名」の境界線にも踏み込みます。
仲の良い友人同士の軽いツッコミは、なぜ悪口にならないのか。逆に、同じ言葉でも関係性や状況が変わると悪口になってしまうのはなぜか。
著者は、その違いを言葉そのものではなく、発言者と受け手の関係性・その場の空気・繰り返しの有無といった文脈に求めます。「言葉の意味」だけを見ていては、悪口の本質は見えてこないという指摘は、日常のコミュニケーションを振り返るきっかけになります。
同じ「いじり」の言葉であっても、日頃から信頼関係が築けている相手とのやり取りなら笑い話で済む一方、関係が浅い相手や力関係に差がある相手に対して使うと、一方的な攻撃として受け取られやすくなります。本書が示す「関係性」「その場の空気」「繰り返しの有無」という3つの視点は、自分の発したひと言がその場でどう機能しているのかを見極める、シンプルな物差しとして役立ちそうです。
言葉が相手との関係性に与える影響という点では、以前ご紹介した阿川佐和子さんの『聞く力 心をひらく35のヒント』にも通じるものがあります。あわせて読むと、話し方・聞き方への理解がより深まるはずです。
悪口はどうして「面白い」のか(第3部)
本書の最後のパートは、ちょっと耳が痛い問いを扱います。悪口はいけないと分かっているのに、なぜ私たちはつい盛り上がってしまうのか。
目次には「笑いと悪口」「悪口の脳研究」「狩猟採集民の悪口」といった項目が並びます。笑いとの関係、脳科学、人類学と、言語哲学の外側にも視野を広げて、悪口を「人間らしい営み」として見つめ直すパートです。
「悪口を言う自分」を責めるだけで終わらず、なぜそうなるのかを知ることで、言葉との付き合い方を自分で選べるようになる——本書の締めくくりとして、もっとも身近に感じられる部分かもしれません。
悪口を言われたら、どう向き合うべきか
我慢してやり過ごすべきか、それとも言い返すべきか——本書はこの難問にも一つの視点を示します。
悪口が「相手のランクを下げる行為」である以上、黙って受け流すことは、そのランクづけを黙認することにもなりかねません。
もちろん短気に反応することを推奨しているわけではありませんが、「大人だから我慢する」という一辺倒な対応ではなく、状況に応じて適切に言葉を返す選択肢があってもよい、という考え方は、これまでの「悪口=とにかく我慢」という価値観に一石を投じてくれます。
実際にどう言い返すかは相手や状況によって変わるため、本書は具体的な切り返し方のテンプレートを提示するタイプの本ではありません。それでも、「自分は今、ランクを下げられようとしているのかもしれない」と一歩引いて状況を捉え直すだけで、感情的に消耗する場面を減らせそうです。向き合い方の「軸」を持つためのヒントとして、読んでおいて損はない一冊です。
読んで重なった、わたしの気づき——悪口は「周り」にも伝わる
わたしがいちばん納得したのは、悪口は人の「ランク」を下げる、という部分です。悪口を言われると、それを聞いていた周りの人まで「この人はいじったり、軽く扱ったりしてもいいんだ」と思ってしまう。
悪口の怖さは、言われた本人だけで終わらないところにあるのだと気づかされました。
読書感想文で使うときのヒント
ちくまプリマー新書は中高生向けにも書かれたシリーズで、本書は読書感想文の題材にも向いています。書きやすくするためのポイントをまとめました。
- テーマの選び方:「悪口はなぜ悪いのか、自分はどう考えるか」に絞ると書きやすい
- 書き出しの例:「『悪口はやめなさい』と言われてきたけれど、なぜダメなのかを説明できなかった」
- 体験と結びつける:あだ名・いじり・SNSの書き込みなど、自分が見聞きした場面を1つ取り上げ、本書の「ランクを下げる」という考え方で見直す
- 注意:あらすじの説明だけで終わらせず、「自分はどう考えたか」に字数を使う
構成の例は次のとおりです。
- 本を手に取ったきっかけ
- いちばん印象に残った考え方(例:悪口は相手のランクを下げる行為)
- 自分の体験と照らし合わせて気づいたこと
- これから言葉とどう付き合いたいか
よくある質問
Q. 何ページありますか?
160ページです(ちくまプリマー新書・新書判)。
Q. 中学生・高校生でも読めますか?
読めます。中高生から大人まで向けたシリーズで、専門用語も少なめです。
Q. 同じ著者の本はありますか?
『悪い言語哲学入門』(ちくま新書)があります。本書より踏み込んだ内容です。
まとめ:言葉への向き合い方が変わる一冊
読み終えると、日常で何気なく口にしていた言葉や、SNSで見かける中傷の一つひとつが、少し違って見えてきます。
悪口を「感情の爆発」ではなく「関係性を操作する行為」として捉える視点は、言われた側だけでなく、言ってしまう側にとっても学びが多いはずです。
SNSでの何気ない一言が、時に大きな波紋を呼ぶ時代だからこそ、「なぜその言葉が悪口になるのか」を言語哲学の視点から理解しておくことは、オンライン・オフラインを問わず役立つはずです。話題の一冊ですので、気になった方はぜひ手に取ってみてください。
言葉が相手との関係性をつくっていくという視点は、以前ご紹介した『話す力 心をつかむ44のヒント』にも通じるテーマです。「悪口」というネガティブな切り口から言葉の力を捉え直したい方は、あわせて読んでみるのもおすすめです。
言葉との付き合い方を見つめ直したい方に、ぜひ手に取ってほしい一冊です。
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