【本の要約・レビュー】『生き物が老いるということ』~老いる意味とは何か~

なるべくジャンルが被らない本を紹介したいと思いつつも、
私はいかんせん生物が好きなので
今回も生物にまつわる本をご紹介致します(笑)

今回紹介する本は稲垣栄洋さんの作品から一冊ご紹介させて頂きます。
稲垣栄洋さんの本は過去にもレビュー記事を書いていますので、
興味のある方はこちらもご覧ください。

目次

『生き物が老いるということ』の概要

出版社:中央公論新社
発売日:2022/6/9
ページ数: 224ページ
この本の読書難易度は★5中★2です。

著者は国立・私立中学入試の国語の問題で
最頻出作者に何回も選ばれたことがあるそうです。

そのため著者の作品の文章は読みやすく、
それでいて内容は非常に詰まっているものが多いです。

今回ご紹介する本はこんな人におススメです。

老いることにネガティブな感情を抱いてる人

『生き物が老いるということ』から学んだこと、心に残ったこと

老いとは実りである

若いときは誕生日ってうれしかったですよね。
大人に近づいてる気がして、
自身の成長を感じていました。

しかし、年を重ねるにつれて感じるのは
「自分が次第に衰えているのでは・・?」
ということです。

昔は出来たことが出来なくなった時、
自分の衰えを感じて、
悲しい気持ちになることもありますよね。

さて、そんなことを考えてしまう人に
「イネ」は老いることについて1つの示唆を与えてくれます。

イネは若いときは青々としていて、葉や茎は瑞々しいですよね。

しかし秋になるにつれて、
茎や葉は水分を失って茶色になっていきます。

人間でいえば「老いた」状態ですが、
これは若い時より劣っているということでしょうか?

そんなことはありません。

老いたイネにしか生み出せないものがあります。
それは「コメ」です。

全身の栄養をつぎ込み「老いる」ことで、
初めてイネはコメを残すことができます。

若く青々としているだけが価値ではないのです。

これは我々人間にも学びを与えてくれます。

若々しく体力がある若いときは、
それはそれでもちろん価値のある時代です。

しかし、人間も若さだけが価値ではないはずです。
知識や経験、若い世代では得ることの出来ない経験があるはずです。

我々が年老いたときに、
イネのように残すことができる「実り」とは何でしょうか。

これはきっと一人一人違うと思います。
しかし、決して老いたからといって、
自身の価値が無くなるわけではありません。

大切なのは、
年を重ねるごとに自身のステージが変わったことを認識すること
そして
今の自分に出来ることを探し求めること

そうすることで、
我々はイネのようにその時にしか残せない価値を残していけるのではないでしょうか。

老いは退行ではなくステージが変わること。
その中で自分が残していける価値を生み出すことが大切。

生物は自ら「死」を選んだ

皆さんは生物ならなんでも
寿命があって死ぬと思っていますか?

それは正しくはありません。

たとえば
ジャガイモ

ジャガイモは枯れる前に自分の分身となるジャガイモを作ります。

これは子孫ではなく自分の体の一部です。

もともとの体は枯れてしまいますが、
このジャガイモ(種芋)を土に植えるとまたニョキニョキと
おなじ性質をもったジャガイモができてきます。

つまり死んでいないといえるわけですね。

また他にも「単細胞生物」もその一つです。
(細菌とかですね)

これらは、自分のコピーを作りながらどんどんと増殖していきます。
単純にコピーなので、コピー前後で違いはありません。

まったく同じ自分、出来上がるのです。
なので前の体がなくなったとしても
生き続けていると考えられますよね。

では、なぜ生物は死というシステムを生み出したのでしょうか。
それは「変化する環境で生き残るため」です。

そんな「ジャガイモ」ですが大きな欠点があります。

それはすべて同じ性質を持っているので、
弱点もすべて同じなわけです。

なのである病気が流行ったとして、
その病気がおなじ弱点をもつ「じゃがいもグループ」に
流行ったとすると・・・

そうです。全てのじゃがいもがダメになってしまいます。

このように自己増殖するタイプの生物にとっては、
変化する環境に対応することが難しいという弱点があります。

さて、そんなことでは生き残っていくことが難しいと考えた生物は、
「遺伝子を組み合わせて」子孫を残す方法にシフトしたのです。

これなら、生まれてきた個体は親とは異なる性質を持ちます。
外部環境が大きく変化しても、この子孫は変化に対応することができるかもしれません。

古い個体は遺伝子を残して死んでいき、
遺伝子を少しずつ受け継いだ子孫が環境に対応しながら生き延びていく。

そうして生命は永遠に生き続けることを目指しました。
このように生物は生と死を獲得していったのです。

「古い個体も生き残ってもいいのでは?」と思いますが、
それでは新しい世代と古い世代で生存競争をすることになります。

もしかしたらそのようにして親子で争った時代もあったのかもしれません。
しかし我々生物はその道を選びませんでした。

新しい世代に道を譲り、古い世代は去っていく

生物が命をつないでいくには、
最善な方法として「死」が生み出されたのです。

死は生物が永遠に存在するために生み出された高度なシステム

『 生き物が老いるということ』を読んだ感想

内容は著者の専門である生物学をベースに進められますが、
生物の話に留まらず、
「なぜ死ぬのか?」など哲学的な内容にも踏み込んでいいきます。

私は著者の本をいくつか読みましたが、
非常に読みやすい文章でありながら、
自分に気づきを与えてくれるところが非常に気に入っています。

「老いることもまた、人間の特徴」
この一文に、自分は衝撃を受けました。

思えば、老いることの出来る生物は限られているのです。
他の動物の多くは出産を機に死んでしまいます。
また病気になったり弱ったりしたら、
外敵に襲われて死んでしまいます。

自然界で生きている動物で
寿命を迎えるまで生きていることはほぼ不可能に近いわけです。

しかし我々は老いることができる環境を手に入れました。

冒頭のイネの部分でも書きましたが、
老いることを手に入れた我々人間は何を残していく必要があるのでしょうか。

答えは出ませんが、
このことに気づけただけでもこの本を読んだ価値はあったと思います。

それでは次回のレビュー記事で!

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